玉手箱に詰めたニューヨーク。

コラム

38歳を迎えた夜、日付が変わる頃に飛行機へ乗り込んだ。
友人たちに囲まれて過ごした誕生日の余韻を胸に、東京へ向かう。
気心の知れた友人と過ごす時間は、何よりも特別だ。

誕生日の夜

僕は自分の感情をとても大切にしていて、嬉しいことも悲しいことも、
その“感情の純度”を守るために、打ち明ける相手を慎重に選ぶ。
打ち明ける度に、友人と心の距離が縮んでいくのを感じられる。

夜中の2時にニューヨークを発ち、朝の5時に羽田に着く。
14時間のフライトのうち、10時間はぐっすり眠り続けた。
目を覚ますと、CAの方がバースデープレートを差し出してくれた。
見ず知らずの人に祝われるのは少し照れくさいけれど、
“Happy Birthday”の文字を見た瞬間、素直に笑みがこぼれた。

機内の誕生日プレート

日本とニューヨークを行き来するようになって、もう11年。
二つの都市の“いいところ”を取り込みながら、自分のスタイルを築いてきた。
それは、わがままではなく、我がまま──“自分のまま”で生きること。

物価が高騰し、住みにくくなったとはいえ、
ニューヨークの魅力はやはり“メルトポット”と呼ばれる多様性にある。
ルールも枠もないこの街では、互いの価値観を尊重しながら生きる。
だからこそ、自分が「どう立つか」を常に問い続けられるのだ。

誰もが悩みを抱えながらも、それでも前へ進む。
そのエネルギーこそが、この街のキラキラとした輝きだと思う。

一方で、日本もまた、心から愛している国だ。
長い歴史で築かれた文化、丁寧な所作、
“空気を読む”という独特の美意識──それらは世界でも稀な感性である。

クリエイションに向き合うとき、日本では集中できる。
クラフトマンシップという精神が、自分の軸を整えてくれるからだ。
日本にいる時間が増えるたびに、表現の輪郭がより明確になっていくのを感じる。

日本での創作時間

世界で手に入れた感性を、玉手箱にちゃんぽんのように詰め込み、
日本でそれを開いて、丁寧に整理しながら新しい形へと昇華していく。
その循環こそが、いまの自分の創作リズムになっている。

ニューヨークの喧騒が恋しくなる瞬間もあるけれど、
日本には日本の豊かさがある。
たとえば、コンビニで150円のおにぎりを買える世界線。
1ドルで何も買えないアメリカにいると、それだけで感動してしまう。
そして、ゴミ箱がほとんどないのに街が綺麗なこと。
それはきっと、この国の思いやりが形になっているからだ。

年末年始を日本で過ごすのは久しぶりだ。
チームと一緒にミラモアの大掃除をして、年越しそばを食べ、お参りに行く。
東京の喧騒がふと静まり、空気に透明感が宿るその一瞬を味わいたい。

今回は、いつもと少し違うことをしてみようと思う。
その小さな変化が、また新しい年の始まりに連れて行ってくれる気がして。

新しい年の始まり

2026年は、新しい素材「シルバー」と新しいシルエットで、
これまでにない表現を生み出す一年にしたい。
だからこそ、残りの2025年を、丁寧に過ごしていこうと思う。

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