抜け感とジュエリー:ダウンタウンニューヨーカーのスタイル

コラム

ニューヨークに移住して10年が経つ。間違いなく、ニューヨーカーのスタイルから多くのインスピレーションを受けている。それこそが、「Designed in New York, Handcrafted in Japan」のコンセプトだ。一言でいうと、ダウンタウンニューヨーカーは「抜け感」を持つスタイルが上手だと思う。
もちろん、全身ハイブランドに身を包んだ人も見かけるが、物価が世界一高く、そして上がり続けているニューヨークでは、ファッションにかける予算も限られているだろう。だからこそ、センスを駆使して「個性」を表現している。これはあくまでも自分の美学だが、ハイブランドが好きでも、全身をロゴで固めるのは窮屈に感じる。
まず、ニューヨーカーはスポーツウェアの着こなしが得意。移住する前は、運動着なんて古びたTシャツとパンツで十分だと思っていたが、アメリカではおしゃれなスポーツウェアの選択肢が豊富で、特にフィットネス文化が根強いマッスル大国では、その傾向が顕著だ。



ダウンタウンでお気に入りのスポットは、マンハッタンの水辺にあるウエストサイド。都会の喧騒から一転し、ハドソン川沿いを歩くと、桟橋に穏やかに打ち寄せる波の音が心地よいリズムを刻み、都市の風景に穏やかな背景を与えている。道にはジョギングを楽しむ人々やサイクリスト、散歩をする人々が集まり、誰もが開放感を求めてここに足を運ぶ。川の向こうに広がるスカイラインは街の活力を思い起こさせるが、この場所にいると、そのエネルギーから解放され、コントラストな静けさを感じることができる。都会なのでご想像できるかと思いますが、そよ風はそこまで新鮮ではないが、それもニューヨークらしくてなぜか心地よく、塩気を帯びた空気と緑の香りを運んでくる。水面に映る陽光が踊るたびに感覚がリフレッシュされ、道沿いに広がる砂地はまるで海辺のような雰囲気を醸し出している。鮮やかな青いチェアが立ち並び、物思いにふけりながら景色を楽しむひとときを誘う。ここは、都会の生活とニューヨークのライフスタイルが共存する場所。街と川の繊細な美しさに包まれながら、心を落ち着け、自分自身と向き合うための静かな時間が流れている。
ホットな男女、家族、ペットと、まさにニューヨークの最大の魅力である多様な人種が交わる場所で、ニューヨーカーのバイブスがここで一気に感じられるから好きだ。



ランニングは苦手なので、散歩をしたり、日光浴をしたり、まさにこのコラムの原稿をこの風景を眺めながら執筆している。
コロナの時期には、数えきれない人々がこのスポットで青空ジムやボクシング、読書などを楽しんでいた。そうした光景はもう二度と訪れることはないが、友人と夕日を見ながらマンハッタンを散歩した記憶は、とても楽しい思い出として刻まれている。
良し悪しはさておき、おしゃれなスポーツウェアにクールなサングラス、ブランドバッグ、そしてジュエリーを身につけた人がショッピングしたり、ブランチする人が多い。10年以上前は、ブランチに行くとモードファッションに身を包んだクールな人々が目立っていたが、最近ではカジュアルなスタイルが増え、ファッションよりもコンフォートを意識した装いが主流になってきたと感じる。
ヨガやピラティス、ウェイトトレーニング、ランニングをしているときでも、ピアスやネックレスを身につけている人が少なくない。日本で部活動をしていた頃を振り返ると、スポーツ中にジュエリーを着けるなんて御法度であり、無礼だと教わってきたため、アメリカのスポーツ選手がそれをパフォーマンス中に身につけている姿を見ると、カルチャーショックを覚える。
このようなニューヨーカーのライフスタイルを体感し、ミラモアのジュエリーはどんな場面でも身につけられるようにデザインしたいと思ったのだ。たとえ裸でも、スポーツウェアを着ていても、センシュアルでおしゃれを楽しめるようにデザインした。



自分は寝ている時も、仕事をしている時も、ワークアウトをしている時も、シャワーを浴びている時も、いつだってジュエリーを身につけている。さすがにパールは汗と水に弱いので避けるが、ミラモアのデュオチェーンとピアスなら問題ない。これを推奨するとアトリエ長からは怒られるかもしれないが、自分の責任の範囲であればぜひやってほしい。
極端な話、シンプルなファッションをしていても、ミラモアを身につければ即座に洗練されたスタイルに仕上がることが狙いだ。
ミラモアは伝統とクラフトマンシップを真剣に守っているが、どこか都会的だと言われたことがある。それは最大の褒め言葉であり、この視点がブランドの強みなのかもしれない。
自分のスタイルは生粋のダウンタウンマンハッタンだ。ニューヨーカーのスタイルに興味がある人には、ジュエリーを特別な機会だけにとらわれず、日常的に楽しむことをおすすめしたい。ジュエリーを取り入れながら「抜け感」を意識したファッションで、ぜひ自分らしいスタイリングを楽しんでみてほしい。

  

稲木ジョージ
ミラモア創設者&金継ぎ哲学者

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